盲導犬テディの独り言

生まれてから盲導犬として活躍する毎日を、盲導犬テディの立場から発信します

第1話 僕の名前はテディ

僕の名前はテディ。白のラブラドールレトリーバー。今1歳と9ヶ月だよ。

盲導犬の卵ってことで、まだパートナーは決まってないだ。盲導犬になるのには、僕と一緒に歩くパートナーさんが要るんだって。僕は仙台の訓練所でみんなに可愛がられて訓練を受けてたんだよ。ある日突然横浜の訓練所から訓練士さんがやってきて、僕のことをじーっと見てそれから僕を連れて歩き出したんだよね。今までの訓練士さんと違って何なんだろうって思ってたんだ。しばらくあっちこっち歩いて僕の頭をポンポンって叩いて横浜に帰っちゃった。なんだったんだろうなー。

それからしばらくして、同じ訓練士さんが僕を訪ねてきたんだ。

「テディ、これから横浜に行くよ」だって。

何だかわかんないうちに、車に乗っかって長い距離を走って、ついたところが横浜の訓練所だったんだ。

それからは迎えに来てくれた訓練士さんと色々と訓練を始めたよ。

仙台の訓練とはちょっと違って、面食らっちゃった。

でもとっても優しい訓練士さんだったよ。

僕は富士ハーネスで生まれて、2ヶ月ぐらい経ってから横浜の訓練所に移動して、それから埼玉のこうじパパとママのところでパピー時代を過ごしてね、一歳になった頃に仙台の訓練場に行ったんだ。これからまた横浜の訓練所でしょう。今まで5回以上あっちこっちに移動してた僕。どこに行ってもみんなに可愛いがられたんだけど、なんであっちこっちに行かなきゃいけないのかなぁ?不思議だったよ。横浜に行ってもまたどっかに行かなきゃいけないのかなぁって思うと、なんだか怖いような寂しいような、何とも言えない気持ちになっちゃう。だって同じところにずっといられないんだもん。みんな優しいけど僕の居場所ってどこなんだろうって考えちゃうよ。大体盲導犬ってよくわかんないし、訓練してる事はわかるけど何のための訓練だかわかんない。でもやっぱり上手く出来ると、褒めてもらえるのが嬉しいから頑張っちゃうんだ。やらなきゃいけない事はみんな上手にできたよ。だから「盲導犬の卵」って言われてるんだけど、何のことなのかな。よくわからないけど、僕のことを褒めてもらいたいから、いろいろやってきたんだ。

みんなは僕をのんびりしているって言うけど、僕の身体が大きいからかな?

本当はそんなことないんだけどね。いろいろ考えながら動いているだけなんだよ。それが良いことなのか解らないけど、「おとなしいね」「可愛い子だね」って言われるんだ。

なんか違うんだよなぁ。

本当の僕じゃ無いんだよね。きっといつか僕のことを分かってくれる誰かが僕の所に来てくれるのかな。それが皆んなが言っているパートナーなのかもね。

パートナーになったらずっと一緒にいられるのかなぁ。

どんな人がパートナーになるのかなぁ。

優し人がいいなぁ。

僕のことを可愛がってくれて、僕のことを解ってくれて、ずっと一緒に居てくれれ人が良いな。そして盲導犬ってなんなのか、教えてくれたらもっと嬉しいよ。

「盲導犬の卵」になると背中にガッチリとしたハーネスって言うのを着けるんだ。

ハーネスには棒が付いて、訓練士さんがそれで持って、色々教えてくれていたんだけど、

横浜にきてから僕だけが棒じゃなくなったんだ。なんでだろう?

僕ハーネス付けるのが苦手なんだ。狭くてカタイところに頭を入れなきゃならないんだけど、何回やっても好きになれない。入っちゃえば何でも無いんだけどね。

きっと僕の欠点だよね。早く慣れなきゃならないんだけど、やなんだよなぁ。

あれさえなければなぁ。首を下げてあの中に入るのが本当にイヤだ。

第2話 パピーの僕

僕テディ。僕が2ヶ月の時にこうじパパとママの所に行くことになったんだよ。富士ハーネスでは、赤ちゃんが生まれた時にアルファベットのAから順番に名前の頭文字をつけているんだって。僕のお母さん犬が赤ちゃんを産んだ時にTだったから僕の兄妹達は皆んなTから始まる名前なんだよ。それで僕にテディって名前をつけて貰ったんだ。

パピーウォーカーさんは、伝えられたアルファベットを元に、男の子、女の子の名前をそれぞれ5個ずつ、合計10個の名前を盲導犬協会に渡すんだって。

それから盲導犬協会で活動中の盲導犬とかぶらない名前を探して、パピーウォーカーの元に預ける時に、はじめて名前を教えてもらう。

その日までは男の子が来るのか、女の子が来るのかわからないんだって。

そんな中で決まった僕の名前が「テディ」なんだよ。

テディはパパとママが一生懸命考えてくれた名前で、アメリカの26代目の大統領セオドア・テディ・ルーズベルトのセカンドネームの「テディ」をもらったんだって。

“テディベア”はルーズベルトが熊撃ちに出掛けた時に、怪我をしていた熊を助けてから“テディベア”の名前のクマさんのぬいぐるみが出来たんだって。

僕はそんな素敵な「テディ」って名前を、パパとママにもらったんだ。

僕の兄妹は男の子3、女の子3の6兄弟。その中で僕はいちばん最後に生まれて、パパとママの所に行った時には3.95キロと兄弟の中で一番小さかったんだって。

(兄弟の他の子達は4.3キロくらいなんだって)

でも、それから沢山食べてどんどん大きくなって兄弟の中でいちばん大きくなったんだって。(今では、37キロ)

新しいお家にはアイリスっていう黒のラブラドールのお兄ちゃんがいて、僕を凄く可愛いがってくれたんだ。パパがお仕事でいない時は、アイリスお兄ちゃんとママとでいっぱい可愛がって貰ったよ。お昼寝の時はお兄ちゃんのお腹にくっついて寝たり、ママには抱っこして貰うのが嬉しくて、ママの後を付いて回って邪魔ばっかしてた。だって僕は未だ赤ちゃんだったんだもん。

ある時アイリスお兄ちゃんにじゃれついて、噛みついて怒られた事があったんだ。その時にかんじゃいけないってわかったよ。お母さんに教えて貰う事を代わりにアイリスがたくさん教えてくれたんだ。僕はパパとママとアイリスお兄ちゃんとの間で一緒にスクスク育ってどんどん大きくなって行ったんだ。お兄ちゃんがボールで遊んでいるのを見て僕もボール追っかけて、転んだりすべったりしながら、だんだんと上手に遊べる様になったよ。ママが「シット」て言うとアイリスお兄ちゃんが座るから僕もまねしたり、ご飯の時に「ウエイト」ってママが言うとお兄ちゃんは直ぐに食べないから、僕も食べたくて仕方ないけど我慢してるうちに、何となくママやパパの言う事が分かってきたんだ。お兄ちゃんの真似してれば誉めてもらえるんだ。褒めて貰うと嬉しくて「ハッハッ」て興奮してママやパパの周りをクルクルしたり、ピョンピョン飛びはねたよ。

後で解ったんだけどお兄ちゃんがしてたことは、「シット」とか「ウエイト」って言葉を聞く事で、“盲導犬としてのコマンド”を知らないうちに覚えてたんだ。

それからしばらくして、お外に出掛けられるようになったんだ。(パパとママの所に行ってから、1ヶ月間は外には出られないんだよ)

それまではお家の中だけだったから、初めて見る物がいっぱいあってビックリしたよ。

外に出る時は必ずカラー(首輪)にリード(手綱)を付けて散歩するんだけど、楽しみが増えたよ。お兄ちゃんは「ヒール」って言われると一緒に歩いてくれる人の左側を歩いている。だから僕も「ヒール」って言われたら慌ててお兄ちゃんの真似したんだ。そしたらすごく褒められて、僕は嬉しくて嬉しくて、なんでもお兄ちゃんの真似をするようにしたんだ。たまに横浜の協会にパパとママと一緒に行くと、僕の兄弟達や僕と同じくらいのパピーの子達が来ていた。そこでは順番に色々なゲームみたいな事をするんだけど、僕は上手だねって褒められるよ。訓練士さんがビックリしてたんだってさ。僕はパパとママの教えてくれた事をちゃんと出来てとってもうれしかったよ。

協会に集まって色々なゲームをすることを「レクチャー」っていうんだってさ。

レクチャーでは褒められる事が多かったけど、いつも上手に出来たわけじゃないんだ。順番を待つのが我慢出来なくてワンワン吠えたり、ボールを取りに行きたくてリードを引っ張ってパパ達に駄目って言われちゃたこともあったんだ。お家に帰ってから出来なかった事をしっかり練習させられたよ。それからは駄目っていわれることはほとんどないと思うよ。

怒られることもあったけど、僕はパパとママとアイリスお兄ちゃんが大好きなんだよ。まだまだやらなくちゃいけないことが、いっぱいあるみたいなので、僕頑張るんだ。

褒めてもらうのすごくうれしいんだもん。

アイリスお兄ちゃんと

第3話 ママ、パパ、僕頑張る

テディだよ。

今度は街に出てパパとアイリスお兄ちゃんととても面白い事をした。はじめて動く階段に乗る練習をしたんだよ。エスカレーターって言う変わった乗り物で、最初は乗り方が分からなかったんだ。お兄ちゃんの真似したんだけど、乗るタイミングが解らなくてチョットだけ、こわかったよ。
でも何回も練習したら上手に乗る事ができたんだ。登るより、降る方が簡単かな。
エスカレーターには乗っかっていれば、勝手に上に運んでくれたり下に運んでくれたりで面白いね。でも降りる時はドキドキするよ。上手く降りないと階段が無くなっちゃうからね。でもとなりにお兄ちゃんがいたから、安心して何回も練習できたよ。

それからだいぶ暑くなってからパパとママとお兄ちゃんとお泊まりに車でお出かけしたんだ。そこにはまたまた見たことの無い、大きなお風呂があって、ママにガッチリした洋服を着せてもらってから、まずはお兄ちゃんがお風呂の中に飛びこんだんだよ。僕も真似をして飛び込もうとしたんだけど、足を入れたら冷くて、怖くて真似出来なかったんだ。そしたらパパがヒョイと僕を抱いて、大きなお風呂の中にポイっていれちゃったんだ。もうびびって夢中でバタバタしてたら、不思議と前に進むんだ。僕の前にはお兄ちゃんがいたから水を飲まないように頭をあげて、頑張って後をついていったよ。この大きなお風呂はプールっていって泳ぐトコなんだって。パパとママは「テディ、ライフジャケット着ているから溺れないんだよ」ってニコニコして言うけど、僕は本当にビックリしたよ。

この頃から僕どんどん大きくなってお兄ちゃんと綱引きが出来る様になったんだけど、お兄ちゃんにはなかなか勝てないんだ。たまに勝つ事が出来るんだけど、お兄ちゃんがわざと勝たせてくれてたみたいだ。だってお兄ちゃんが引っ張る力が急に弱くなるんだもの。本気のお兄ちゃんにいつか勝ってやるぞ。

ドッグランって所に連れていってもらったよ。そこではリードなしで走ったり、お兄ちゃんを追いかけたり、ママの周りを一緒に歩くことができるから、僕思い切り楽しんだんだ。
それからまたプールの話なんだけど、今度はパパとママがライフジャケット無しで泳いだらって言うんだ。僕できるかな?何度か練習していると泳げるようになったけど、必死に水かきしないと沈んじゃうからとっても疲れるんだ。そんな僕をパパとママは心配そうに見ているけど、褒めてもらえるのが嬉しいから僕頑張れるよ。

僕の身体がお兄ちゃんに近づいてきて、もう少ししたら追い抜くかもって思っていた頃、パパが「テディお話しがあるんだ」って言ってきた。
その頃はママがよくひとりでお出かけしてたか、なんだか変な予感がしたよ。

パパの話は僕に1ヶ月くらい他所のお家で過ごしてねって事だった。
アイリスお兄ちゃんも別のお家に行くんだって・・・
なんでパパとママとお兄ちゃんと離れ離れにならなくちゃいけないの?
でももう決まった事だから、僕は受け入れることにしたよ。

新しいお家は、クッシーママの所で僕の新しい生活が始まったんだよ。
最初は寂しくってパパとママの姿を探すことが多かったけど、どこにも居ないしアイリスお兄ちゃんも居ないし、でもパパがきっと迎えに来てくれると思ってクッシーママの言う事をちゃんと聞いたよ。クッシーママはとても優しくて、色んな事を教えて貰ったり、上手に出来ると「グッド」って褒めてくれるんだ。褒めてもらえるの僕とっても嬉しいよ。

クッシーママのところでも初めての事を沢山経験したよ。
とても寒い朝だったんだけど、お外が真っ白になっててビックリした。僕は白くて冷たい地面にこわごわ足を踏み出してみると、クッシーママが「これ雪よ」って教えてくれた。「テディ、カム」って雪の中からクッシーママが僕を呼ぶから、おっかなびっくり踏み出してみたら、雪って冷たくて気持ち良いんだ。僕、楽しくて楽しく駆けずり回ったり、雪の中に飛び込んでいっぱい遊んだよ。クッシーママもとっても楽しそうで、僕まで嬉しくなっちゃった。
クッシーママは他にも色々な所に連れて行ってくれたんだ。お水がチョロチョロ流れてる所は沢っていうんだって。公園にも連れて行ってもらったよ。本当に楽しかったな。

僕の1歳の誕生日に、大きなバルーンのプレゼントとお手紙が届いたんだ。お手紙はパパとママとアイリスお兄ちゃんからで、クッシーママが読んでくれたんだ。
僕のこと凄く愛しているって書いてあるんだって。パパとママは迎えにきてくれないから、忘れられているのかな?って考えていたけど、そんなことなかった。嬉しいな。

こうじパパ、ママ、アイリスお兄ちゃん、クッシーママ、沢山の愛を有り難う。
僕すごく大きくなったよ。身体も心もね。

1歳の誕生日からしばらくして、クッシーママが僕に言うんだ。
「テディ、赤ちゃんは卒業よ。これからは盲導犬の訓練をするために、訓練所に入所するのよ。」
「おめでとう」って僕の頭を沢山撫でてくれた。
この時に僕はパパとママの所に戻るんじゃなくて、僕の新しい生活が始まるんだってなんとなくわかったよ。

訓練所に入所する前に、ママのいる所に連れていってもらった。
そこにはパパもいて本当に久し振りにパパとママにあえたよ。
ママは白いベットに寝てたけど、僕を見てすぐに「テディ」って呼んでくれた。僕はママの所にかけよって、ママの手にキスを沢山した。それからママといっぱいお話ししたよ。
ママが「テディ、あなた盲導犬になるのよ。それがママの願いなの」って僕を撫でながらそう言ってハグしてくれた。

この時、僕決心したんだ。絶対に盲導犬になるよ。だからママもベットから出て、また僕と遊んでね。

皆んなとお別れするのは辛いけど、訓練所ではこうじパパやママ、クッシーママに教えてもらった事、しっかり忘れないで頑張るねって約束してママとバイバイした。

僕もうパピーじゃないんだ。

盲導犬を目指す訓練犬になるよ。

第4話 僕、訓練中

ハーイ テディだよ。
盲導犬になるのに「やってはいけない事」と「やらなければいけない事」が沢山あるんだけど、今回は、その中で僕が解っている事を紹介するね。

やってはいけない事

・吠える事
・リードで歩くときに草の匂いをかいだり、落ちている物を口にする事
・動いてる物を追いかける事
・急に引っ張る事
・散歩中の犬に近づく事
・他の人に近づく事
・オシッコやウンチを勝手にする事
・興味ある物の側に行く事
・急に走る事
等、まだまだいっぱいあるんだけど未だ全部覚えきれてないんだ。

やらなければいけない事

・コマンドを理解する事(コマンドとはパートナーからの命令って事なんだ)
・コマンドに従う事
・段差を教える事(段差があったら僕が段差に両足をかけて止まって、パートナーに伝える)
・階段を教える事(階段の前で一度ストップする)
・曲がり角を教える事(曲がり角を入ったところで止まって伝える)
・横断歩道を教える事(横断歩道を探して、見つけたら渡る前に止まって伝える)
・障害物を教えて避ける事(停車中の車があったら、回り込むように動いて伝える)
・危ない時はゴーと言われてもコマンドに従わない事(自転車が近づいて来た時などはその場に止まって伝える)
・車の音とかに気をつける事
・電車や病院では椅子がある所を教える事
まだまだたくさんあるよ。

1つ1つしっかりと覚えていくことが大事なんだよって訓練士さんに言われるよ。上手に出来ると凄く誉めて貰えるんだ。パピーの時と同じように褒められるって凄く嬉しいよ。

僕、訓練するのが大好きなんだ。最初は訓練所の中でコマンドをしっかり覚える。これが出来ないと次のステップに進めないんだ。
コマンドの数はたくさんあって、ひとつ覚えると段々と面白くなって次のコマンドを早く教えて欲しくなるんだよ。訓練士さんに新しいコマンドを教えてもらうと、僕はまず何をするのかなって考えて、コマンドの意味を理解するんだ。意味と行動が一致するまで少し時間がかかるけど、一致するともう嬉しくて頭の中のある場所にしまっておくんだよ。コマンドとコマンドが繋がると、点と点が線で結ばれる感じかなぁ。色々解ってくるんだ。それが面白いよ。

訓練が次のステップに進むと、ハーネスをつけて訓練所の外に出て、それまでに覚えた事がちゃんと出来るかどうかチェックされるんだ。外での訓練は訓練所の中と違って色んな音とか人の声が聞こえるし楽しそうな物が沢山あって、気があちこちに散らばるんだけど、リードから訓練士さんの「集中して!」って気持ちがわかるんだ。
そのときは、ビクッとするけど教えてもらっていた事とか、コマンドが頭の中のある場所から出てきたよ。何回も練習すると色んな音や人の声が気にならなくなって、今度は楽しくなって来てコマンドもちゃんと練習通りに出来る様になってきたんだ。
訓練の中でも特に僕が好きなのは、パピーの時にこうじパパ・ママ・アイリスお兄ちゃんたちと乗ったエスカレーターに乗る練習。あのときみんなで経験しておいてよかったな。初めてエレベーターに乗る練習をしたときなんだけど、とても上手に出来たと思うよ。だってパピーの時にいっぱい教えてもらったもん。一回でOkもらったよ。僕乗り物好きかも。電車に乗るのも上手に出来たし、バスや車に乗るのも大好きなんだよね。
バスや電車は空いている時と混んでいる時があるから、座れる時と、そうで無い時の違いがあったり、タイミングが難しいんだよね。
バスや電車はスピードが変わるし、止まったり、動き出したりするからバランスも難しいんだよね。

仙台から横浜に移動して、今まで練習しなかった新しいコマンドを教えてもらったんだけど、この時にはコマンドが直ぐに頭の中に入っていったんだ。ヤッパリ他のコマンドと繋ぎ合わせるのが時間がかかるんだよね。コマンド同士がくっつくて難しいんだよ。考えている事が多いからかな?僕がノンビリしてる子とか、大人しくてゆったりしてるってよく言われる。その時は、頭の中でジックリとコマンドを考えて繋げているんだけどね。

そうそう凄く大事な事を忘れていたよ。
パピーの頃から教えてもらってて、当たり前の事って思っていたんだけどね。ウンチとオシッコのことね。ワンツーって言うの。ワンがオシッコでツーがうんちだよ。トイレの時間は朝起きてから直ぐで、オシッコベルトとウンチベルトそれぞれをつけてもらうんだ。これをワンツーベルトっていうんだよ。用を済ませたら、朝ご飯を食べるんだ。朝ごはんの後はしばらく休憩してからストレッチのウォーミングアップをして訓練に入るんだけど、車に乗るまえにワンツーを済ませて出掛けるんだよ。
訓練所に帰って来てから少し休憩するよ。お水飲んだり、お昼寝するんだ。ワンツーについては特に意識した事はなかったけど、上手に覚えられたみたいなんだ。

横浜に来てしばらくたった頃、訓練士さんから「テディにパートナーさんを考えているのよ」って言われた。
僕「えっ」て驚いちゃった。せっかく横浜での環境に慣れてきた頃だったからポカンとしちゃって、また何処かに行くのかなと思ったら悲しくてシュンとしちゃったよ。
その後のことは余り覚えて無いんだけど、訓練士さんから「これでテディは盲導犬になるのよ」って言われてハッとしたんだ。そうかパートナーが出来るって事は盲導犬になるって事なんだよね。

あの日、病院のベットでこうじママが僕に言った「テディは立派な盲導犬になるのよ」って願いを叶える事が出来るかも知れないって思ったら、寂しい気持ちが吹っ飛んで、一日も早くパートナーさんに会いたくなったよ。
どんな人なのかなぁ?
僕まだ2歳になってないんだけど大丈夫かな?
嫌われないかな?
いろんな事が心配だけど、これからパートナーになる人も、今まで僕を愛してくれた人と同じように接してくれる気がする。会って見なければ分かんないけどね。
僕のパートナーは、僕に盲導犬の意味をちゃんと教えてくれる人だといいな。

これからどうなるのかな
不安だけど、楽しみな気持ちの方が大きいんだ。

天国のこうじママへ、遠くからいつも僕を見守っていてね。

第5話 僕とマミー

テディだよ、今すごくドキドキしてるんだ。
今日から僕と僕のパートナーさんとの共同訓練が始まるんだって。パートナーさんには未だ会った事がないんだけど、どうなんだろう。男の人か女の人かも教えてもらってないんだよね。僕的には女の人が良いんだけどなあ。だって今までの訓練士さんはみんな女の人だったからね。でも僕かなり大きいみたいだから男の人かもな。

そんな事を考えていたら、訓練士さんが僕を迎えにハウスまできたよ。いよいよパートナーさんに会えるんだ。又ドキドキしはじめちゃった。

階段を登ってお部屋に着いた。訓練士さんが声をかけてドアが開くとそこに居たのは女の人だった。僕チョットうれしかった。
訓練士さんが僕のリードをはずして「テディて言う名前の男の子です、クリームのラブラドールで、性格も行動もゆったりした良い子ですよ」って言って「午後から練習しますので、それまでゆっくりしてて下さい」って部屋から出ていちゃった。パートナーの女性と二人きりになったから、僕どうしたら良いのかわからなくて、とりあえずパートナーさんの匂いを嗅ぎに側にいったんだ。そしたら「テディよろしくね、今日から一緒にこのお部屋で暮らすのよ。仲良くしてね」って僕を優しく撫でてくれた。何だろうなんか懐かしい様な変な気持ちになった。前から知っている様な感じ。これって僕だけが感じてるのかなぁって思ってパートナーさんを見ると、「テディ、カム」って僕を抱きしめてくれた。僕だけの大事な人って分かったよ。僕のマミーだ。これから先ずっと一緒にいられるんだ。もう離る事はないって分かっちゃたよ。マミーも多分そう思ってくれている。抱きしめてくれてる体、優しい手や僕の名前を呼ぶ声が僕の大好きな、こうじパパやママと一緒だもん。僕もう大丈夫だよ、僕だけのマミーみつけたよ。マミーがオモチャを投げて遊んでくれた。僕飛びついて取りに行ってポンってマミーのところに持っていって、前に置いたら「テディ プットゥ オン」て言われた。わお!初めての言葉だよ、コマンドかなぁ?習ってないいよどうしよう・・・って困ってたら、オモチャを探して膝に上に置いて、「プットゥ オン」て何回も僕に言うの。「これから色々覚えてね」って又抱きしめてくれた。お腹を撫でてくれたり、背中をこすってくれたりしてくれて、とても気持ち良かったなぁ。

午後になってお部屋の電話が鳴ってマミーが「テディ これから訓練だって、二人で頑張ろうね」って言うと僕にリードを付けてエレベーターに乗って上にある大きな部屋にいったんだ。(この時は、マミーがなんで階段を登らないのかわからなかったけど、後になってわかったよ)
ちょっとマミーの歩き方が訓練では経験したことの無い感じ何だよね。なんだろう。部屋には訓練士さんがいてリードで色んな事を二人で出来るかチェックしたんだよ。マミーは僕をヒール(左側に僕が着いて歩く事)して歩くんだけど、少し右に引っ張られる感じなんだ。訓練士さんが「テディ 位置を守って真っ直ぐ歩くのよ」って声をかけてきたんだ、そしたらマミーが僕のことに気がついて歩き方を変えてくれた、それから真っ直ぐ歩ける様になったよ。今までの訓練とは違って、難しいな。でも何回も練習すると上手く歩けるようになったよ。円をかいて歩いたり、回り込んだり、急にストップしたり今までやったこと無い練習をたくさんしたんだ。それから又エレベーターでお部屋に戻ってチョットひと休み。そんな事を二日くらいしたかなぁ。

それからいよいよ訓練所の外へ出かけたよ。大きな通りに出掛けてハーネスをつけて二人で歩いたんだけど、マミーが僕にコマンドを言うのね。マミーはもともとコマンドを知ってたみたいで、僕やった!って思った。マミーと通じ合えるよ。たくさんのコマンドを次々に言われるけど僕にとっては楽勝なんだよね。一つのコマンドを僕がクリアするとグッドグッドてすごく褒めてくれるから、とても楽しかったよ。
パートナーと歩くことは、訓練と違う事が多くてアレっ?ておもうことがいっぱいあったんだよね。この感じは何かなぁって考えちゃうよ。
お部屋に戻ってから、マミーの顔を見てもマミーも僕を見てる感じがするけど目が合わない。なんでかな?何だろうと思うけどね一緒にいると安心できるし、うれしいから良いかな。きっとマミーも僕と同じだと思うんだ。

マミーとは訓練所で5日間一緒に過ごしたんだけど、それから初めてマミーのお家に行ったんだよ。ここでマミーとの生活が始まるんだね。そこには男の人がいて「テディ はじめまして。お父さんだよ」って優しい目で僕を見たんだ。お父さんはとても嬉しそうだよ。僕歓迎されてるんだと思うと恥ずかしいのと嬉しいのとが一緒になってどうして良いかこんがらがって、とりあえずオシッコしたいってマミーに伝えたんだ。スッキリしたら落ちついたよ。
訓練士さんとマミーと僕でお家の近所をハーネスをつけて歩いたんだ。細い道がたくさんあって自転車や車がちょこちょこ来るんだよね。どうすればパートナーと安全に歩けるのか考えるのが僕の仕事なんだよって教えられているんだけど、すごく難しいよ。慣れれば上手く歩けるかなって思うけど時間がかかるかもね。
訓練を終えてハーネスを外してもらったんだけど、僕はどうするのかな?って思ったら訓練士さんだけが帰っちゃったんだ。お父さんが「お家の中を案内してあげるからテディ、入ろうね」だって。マミーに足と手をふいてもらってお父さんについて初めてマミーのお家にはいったよ。

最初に僕のハウス(ベット)を教えてもらいハウスに入ったらすごく気持ち良かった。これからここで暮らすんだと思ったら僕ワクワクしちゃった。
安心したらこうじパパとママ、クッシーママと過ごしてた頃を思い出したよ。でもなんだか眠くなってきて僕そのまま寝ちゃったみたい・・・。

(目が覚めたら、又訓練所に戻っているのかな?・・・・・・・)

朝になって目がさめると、マミーとお父さんが笑顔で「おはよう、テディ」って声をかけてくれたよ。僕うれしい気持ちになっちゃった。もう僕どこにも行かないんだここが僕のいる所なんだ。嬉しくてこのお家がものすごく好きになったよ。

その日も訓練士さんがマミーの家に来て、電車の訓練をして、これから僕を見てくれる動物病院のゆう先生の所に挨拶をしに行ったんだ。色々と忙しかったけど、皆んな優しくてマミーのところに来て良かったって本当に思ったよ。
それからも何日かして、訓練士さんから「テディ、盲導犬になれたんだよ。これから頑張るのよ」って言われたよ。

天国のママへ
「僕盲導犬になったよ。本当に盲導犬だよ。」
「これから先、マミーと一緒に色々な事するんだろうなぁ、とてもウキウキしてるよ。」
「僕二歳になったんだよ。」
ママもきっと喜んでくれてるよね。

第6話 盲導犬の意味

盲導犬になったテディだよ。

マミーが僕のカラーにベルを付けてくれたんだ。僕が動くと「リンリン」って綺麗な音がするんだよ。僕のベルが鳴るとマミーが「テディここよ」って声をかけてくれるんだよ。大好きなマミーと毎日一緒にいられるってすごく幸せなんだけど、マミーの姿が見えないととても不安な気持ちになっちゃうんだ。多分僕の気持ちが通じるのかなぁ、お家の中でマミーが動く時はどこにいくのか教えてくれるんだけど、言葉がまだわからないからいつでもマミーについて行っちゃうんだ。「トイレに行くね」って小さな部屋に入っちゃうとマミーの姿を見えなくなるから、ドアの前で待ってるんだ。「お風呂だよ」ってマミーが言うとまたまた見えなくなるから、マミーが出てくるまでそこで待ってるんだよね。中から声をかけてくれるんだけど、姿が見えないのがいやなんだ。マミーは僕に「心配しないでも大丈夫よ。テディから離れないからね」って言ってくれるんだけど、まだ不安なんだよ。急にマミーが居なくなっちゃったら・・・って思うと後を追いかけちゃうんだ。

それからしばらくして「テディ、カム」ってマミーに呼ばれて側に行ったら「テディは盲導犬の事をまだ分からないでしょう。これから少しずつ教えるからね」って優しい声で僕に話しかけてくれた。僕は盲導犬になったんだけど、「盲導犬って何だろう?」って、ずっと考えてたからマミーの顔をじっと見つめた。マミーの顔を見つめる時にいつも感じたことだけど、視線がやっぱり少しずれてるんだよね。「目が見えない」ってどうゆう事なんだろう。
マミーはこう教えてくれたんだ「テディ、あなたが眠っている時は目をつぶっているわよね。そうすると真っ暗でしょう。私は起きている時も真っ暗なのよ」
僕よくわからなくて、ちょっとパニックになっちゃったんだけど、マミーがそっと僕の目を手で塞いで、「こう言うことよ」って教えてくれたんだ。

目が見えない事はわかったけど、どんな感じなのかがまだはっきりと理解できてないや。マミーのお家の周りを散歩して今まであまり気にしてなかった事、コマンドに集中してたけど、ひょっとするとマミーはお家の周りだから、コマンドも直ぐに出せるのかな、知らないところに行ったらどうなるんだろうって思うと、なんだか怖くなったと同時に、今まで僕が訓練してきたことってこの事と関係があるのかなってなんとなくわかった様な気がしてきた。もし僕が思っていることがその通りだとしたら、すごく大変なことだよね。僕のカラーのベルの音は、マミーが僕の動きを確認するためなんだって教えてくれた。これから先僕お家の周りの道をしっかり覚えてマミーが歩きやすくしてあげなきゃだよね。少しだけど盲導犬の仕事がわかってきた様な気がする。僕頑張らなくちゃいけないね。立派なマミーの盲導犬になるために。

僕がマミーと一緒に暮らす様になって5日経った頃、お父さんとマミーと一緒に車に乗ってお出かけしたんだ。
「富士ハーネスってところに行くんだよ」ってお父さんが教えてくれた。ちょっとマミーが嬉しそうな悲しそうな感じだった。
マミーは僕に「これからテディの先輩の盲導犬だった子に会いにいくのよ。凄く素敵な子だから仲良くして色々教えて貰いなさいね」って話してくれた。
何でその子はマミーの盲導犬をやめちゃったのかな?
こんなに優しいマミーの所から離れなければならなかったのかな?
そんな事を考えていたら富士ハーネスについたよ。そこはパピーの時にこうじパパとママとアイリスおにいちゃんと来たところだった。懐かしいぼくのパピー時代の思い出が一気にあふれてきて、皆んなに会いたいなあってちょっと悲しくてシュンとしてたら、マミーが「テディ、どうしたの」って心配そうな声で話しかけてくれたんだけど、マミーを心配させない様に、マミーの手にキスを沢山したんだよ。マミーは僕の心の中が分かるのかな?マミーの声で不安な気持ちが吹き飛んじゃった。
車から降りると少し歩いて小さな部屋に着いたよ。お父さんは車の中から色んな物を部屋に運んでいて、忙しそうだったから僕は部屋の中の匂いを嗅いでチェックしてたんだ。お父さんが僕のベットも運んでくれた、大好きな僕のベットが部屋にある事はお泊まりかもね。

マミーは少し疲れみたいで、音楽を付けてベットに横になった。
「テディ、ベット」って声かけてくれたんだけど、僕はお部屋のチェック中・・・あっ!いけない!これコマンドだ!って慌ててベットに入って横になったよ。そしたらお父さんが「いい子だね、テディ。荷物を運びやすくなるよ」って褒めてくれた。僕お父さんの邪魔していたんだって気がついてコマンドをすぐに護らなかったのが恥ずかしかったよ。
お部屋が綺麗になってから「これからガウディに会いに行くからね」って。僕の先輩の盲導犬の名前はガウディって言うんだ。ハーネスを付けてもらい建物の中を歩いている時に「ガウディに会ったら僕どんな挨拶をすればいいのかな?」「僕のこと気に入ってもらえるかな?」なんだかとても心配になってきたよ。でもマミーの盲導犬だったんだから素敵なんだよねって気持を落ち着かせた。着いた所はがっちりしたドアがあって中から鳴き声が聞こえている。僕は部屋に入らず、マミーと椅子に座ってお父さんが中に入る様子を見てた。とても嬉しそうな鳴き声が聞こえてきたよ。これがガウディの声だってわかった。僕はしばらくガウディの声を注意深く聞いていたんだけど、ガウディは「マミーにはやく会いたい!」って言っている。僕にもわかるんだよ。僕もマミーから離れたらそう思うから。そしてドアが開いて黒いかたまりがマミーに飛びついたんだ。彼がガウディだって直ぐに分かった。まだ僕には気づいてないみたいだよ。ガウディにはマミーしか目に入って無いんだね。きっとすごく会いたかったんだね。マミーも喜んでいるから僕も嬉しくなっちゃった。

二人の様子を見ていたら、僕もこうじパパやママにすごく会いたくなっちゃった。
こうじパパ・ママと、クッシーママ、僕すごく会いたいよ。僕いい子で待っているから、絶対会いに来てね。

第7話 こうじパパと会ったよ

テディだよ。

富士ハーネスでガウディに会ってお部屋に戻ってから、ハーネスとリードをはずしてもらった。ガウディはリードだけだったよ。それからガウディの僕のチェックが入ったんだけど、僕の後ろに回ってクンクン匂いを嗅いだりお腹の下に顔を入れたり、耳の匂いを嗅いだり急がしそうだった。僕はじっとしてようと頑張ったんだけど、僕もガウディのチェックをしたくてたまらなかった。そしたらガウディがチェックを許してくれたんだよ。ガウディは僕より年上の、なんて言えばいいのかな、とにかく凄い何でも分かっている様な感じがしたんだよね。身体は僕と同じぐらいかなぁ。でもがっちりしていてカッコいいんだよ。頭をクイと上げて立ってるとなんか近づきにくい感じがするんだ。でも僕を認めてくれたみたいで、付いてくる様に合図を送ってきたので慌ててくっ付いていったんだ。

マミーの所に行ってキスをして僕にもする様にって言われて、僕もマミーの顔にキスしたんだよ。マミーはすごく嬉しそうだった。その後ガウディはお父さんの座ってる膝元から飛び上がってお父さんの肩に手をかけてキスした。続けて僕にもする様に合図してくれたんだけどね、僕は遠慮する気持ちが強くて、とても真似することが出来なかったよ。仕方ないから手にキスしたんだ。

ガウディはなんでマミーの盲導犬辞めちゃったんだろう?こんなに元気なのに・・・。って不思議でしょうがなかった。マミーから「ガウディはね、病気なのよ。」「だから盲導犬は出来ないの」って聞いていたけど、目の前のガウディは凄く元気だし、凛としてるしよくわからないよ。

「暖かいうちに、ドッグランにいこうか?」お父さんが声かけてきて今度はリードだけでドッグランに4人で出かけたんだ。リードをはずしてもらったらガウディがばっと走り出したんで僕も追いかけて付いて行ったら、直ぐにガウディがマミーの所に戻って首をクイと差し出したんだよ。そしたらマミーが「ガウディ、有難う。」「ウォッチ、スロー」って声をかけてマミーがガウディのカラーに指をかけて歩きだした。多分コマンドだと思うんだけど僕の知らない初めてのコマンドだ。颯爽とマミーを連れて歩くガウディはかっこよくみえたよ。まだまだ覚えないといけないコマンドがいっぱいあるんだね、少しずつ覚えないといけないね。これからマミーに教えてもらうんだ。

そうそう最初にマミーから言われたコマンド「プットゥ オン」はわかったよ。マミーの膝におくことね。

ガウディはマミーを丘の上の安全な所に座らせてから、僕と一緒に色んな所を走ったり、草の匂いを嗅いだり、転げ回って楽しかったよ。でもガウディはいつもマミーの居る場所を確認してるんだよね。マミーはガウディが連れて行った所から動かないんだよ。ガウディが僕に「マミーの居るところをきちんと覚えていなければだめだよ」って言うのね。これも見えない事と繋がっているのかなぁ。その後寝る前まで色々教えてくれたんだ。どうすればマミーの手伝いができるかとか、僕がやらなければいけない事とかね。すごく難しいけど頑張るよ。僕マミーの盲導犬をガウディから引き継いだんだから。

ガウディとバイバイする時、お父さんが「ガウディ また会いにくるよ、それまで元気でね」ってガウディを抱きしめてガウディの入ってるお部屋に連れて行った。マミーは少し悲しそうだったから、僕がいるからねって伝えて、ガウディに教えて貰ったキスを沢山マミーにあげたんだよ。今度来るまでに教えて貰った事しっかりと練習してくるんだ。

四月になっていつもマミーの所に遊びにきているリコちゃんと凄く小さいワンコのちくわと遊んでいたら、今度みんなで電車に乗って桜の花を見る会に行くことになったんだよね。ユーザー会のイベントなんだって。僕が全然知らない所に行くんだよ。だからリコちゃんが一緒に行ってくれるんだって、なんか今からドキドキしてきたよ。

あっという間にお出かけの日になって、僕の準備が済んでからリコちゃんが迎えに来てくれて、沢山電車を乗り換えて目的地に着いたら、そこにはすでに盲導犬の子達があつまってた。僕初めての遠くへのお出かけだったけどね、ちゃんとマミーをリード出来たと思うよ、でもリコちゃんが居なかったら大変な事になるとこだったよ。マミーも僕も全然知らない所に行ったんだもん。ちょっと休憩してみんなが集まるのを待ってる時、僕の大好きなこうじパパの声が聞こえる、聞き間違えかなぁ?と思ってあちこち探してたら 「テディ パパだよ、大きくなったね」て本当にこうじパパだった。あんまりにもビックリしちゃって、僕動けなくなったんだ。すぐパパの所に行きたいけど脚が前に出ない。こんな事初めてだったから、マミーを見つめたんだ。僕の様子を見ていたマミーは、優しい表情で 「テディ、こうじパパよ。会いたかったでしょう。パパの所に行こうね」って僕をうながしてくれた。僕はマミーと一緒にパパの所に近づいた。懐かしいパパの匂い、「テディ」って呼んでくれる優しい声、胸が痛くなってパパの足の側に座り込んじゃった。マミーがなんかパパとお喋りしてから僕のハーネスを外してリードをパパに渡したんだよ。僕マミーが心配だったけど、リコちゃんがしっかりとマミーの腕をサポートしてくれてた。だから僕はパパの所に行って暫くパパの顔を見つめていたら、時間がポンと飛んでパピーの僕がそこにいたんだよ。パパの手は変わらず暖かくて僕を撫でてくれるのも、一緒だったよ。懐かしい感覚なんだよね、このまま時間が止まってくれないかなって思う。少しパパの周りをぐるぐる回って手にキスしたり楽しかったんだ。「本当に大きくなってテディ立派だね。お仕事上手にできてるの?」って聞かれてハッとマミーを思い出した。マミーは僕の近くに居たんだけどちょっと頭から消えちゃってた。仕方ないよね。パピーの時にはマミー居なかったんだもん。

それからみんなが揃ったので桜の咲いてる公園に行くことになると僕はハーネスを付けてもらい、パパに僕の盲導犬としての姿を見てもらうために張り切ってマミーをリードしたんだよ。パパ喜んでくれてるかな?なんて考えているうちに公園に付いたよ。マミーが「触れる所に花が咲いてる」ってキャーキャー騒いでた。マミーが騒ぐの初めて見てビックリしたよ。マミーっていつもクールな感じだったんだもん。

公園にシートを引いてリコちゃんがマミー達のお昼ご飯の用意を始めたので、僕はチョットお昼寝の時間。僕の隣にはこうじパパがいて、マミーやリコちゃん達の幸せそうな声が聞こえてくるうちに眠っちゃたよ。目が覚めてから、こうじパパと僕はペットボトルを使った遊びをしたんだ。パピーの時大好きな遊びだったんだよね。遊んでいるうちに時間になって、又みんなで駅まで歩いてる時に、マミーが「テディ、パパとリードで歩いておいで。マミーはリコちゃんにリードして貰うから」ってハーネスを外してリードをパパに渡してくれた。久し振りにパパと街の中を散歩して駅まで歩いた。僕、マミーの盲導犬になれて本当に良かったって心から思ったよ。僕の前をマミーとリコちゃんがお喋りしながら歩いてて、みんな幸せなんだって感じられた時間だった。パパとサヨナラする時ちょっとだけ泣きたくなったけど、僕にはマミーを守る仕事があるんだって考えたらパパと元気にサヨナラできたよ。パパまた会おうね、僕もっとかっこいい盲導犬になるよ。まだまだ先だけど、必ずパパが自慢のできる子になるよ。そのときはいっぱい褒めてね。

第8話 入院は嫌だ

テディだよ

だいぶお休みしちゃったけど、やっと僕落ちついたんだ。

マミーの所に来てからしばらくし頃、なんか気持ちが悪くて吐いちゃったんだ。僕ビックリしたけど吐いたら平気になったよ。でも少しかったるかったんだよね。マミーが僕の様子がおかしいってユウ先生のとこに連れて行ってくれたんだ。足の所に注射したんだ。それからお家に帰ってお薬飲んで、マミーから「今日は外で遊んじゃだめよ、大人しくしててね」って。心配そうな感じで僕の事なでてくれた。その日は僕もなんだかやっぱり少し変な感じだったから静かにしてたんだよ。

次の日またユウ先生のとこに行ったら「しばらく点滴するからテディは先生の所にいてね」って言われてマミーが帰っちゃったんだよ。どうしようマミーが居なくなって僕はすごく心配になった。ずいぶん時間が立った時にマミーが迎えにきてくれて、ホットしたよ。大好きなご飯も少ししか貰えなかったり、お水もあまり貰えなかったんだ。僕どこか悪いのかなって急に怖くてマミーの後をくっついてまわったんだ。お父さんとの散歩にも行けないし、ユウ先生の所に行くのも車なんだよ。絶対変だ。

5日ぐらいしたら横浜の訓練所の車が来て、マミーが僕にキスしてこう言うんだ「テディしばらくセンター(横浜の訓練所)に行っててね、明日お父さんと一緒に会いに行くからね」

なんで僕センターに行かなきゃいけないのかわからないから、ドキドキだしマミーと離れるのもいやだし、何がどうなっているのかとても怖くて、センターの車に乗るのが嫌だからマミーの後に隠れちゃった。

ユウ先生は僕の肝臓の数値が物凄く高いのを調べてくれていたんだ。だからなんだかかったるかったんだね。センターではもっと詳しく調べられるんだって。

センターではその日からずっと点滴を足から入れて肝臓の数値が下がるのを待っていたんだけど、数値はどんどん上がるんだって。先生達が「もしかしたら悪い病気かも」って言ってるのを聞いちゃった。僕色々考えて、明日はマミーとお父さんが会いに来てくれるんだけど、余り喜ばないようにするんだ。このままもうマミーの所に帰れない様な気がするんだよ。だから喜んでがっかりするのって悲しいから。今までたくさん辛い事があったからね。

でもね。本音はマミーと一緒にいたいんだ。一緒に歩けるのがどんなに嬉しい事で、これからマミーに色々教えてもらえるはずだったのになあ・・・。

センターに来てから2週間くらい経った頃、大きな病院に連れていかれて、注射を打ってもらったらいつのまにか眠っちゃった。

目がさめると、お腹のあたりの毛が少し刈られてた。なんだろう?

マミーは僕に肝臓の一部を取って、詳しく検査をしたんだよって教えてくれた。検査の結果がわかるのにもう少し時間がかかるんだって。

それからずっとセンターの先生と一緒にいたんだよ。もしかしたら僕このままセンターの先生のお家の子になるのかな。マミーの手伝いができないなら仕方ないって自分を納得させたよ。

僕の体の方は相変わらず肝臓の数値が高くて、お薬を飲んでも点滴をしても下がらない。

でもかったるいのが無くなって、体は楽になってきたから、寝てるのがつまんないよ。

検査の結果はマミーから聞いた。マミーはとっても安心している様子なのが僕には分かったよ。

僕の肝臓には悪い物は今の所ないんだって。

じゃあ、マミーのところに戻れるのかな?

センターに来てから何日も過ぎて、僕たくさんのことを考えていた。

このままセンターのお家の子になるのかな?でも僕の本当のお家はマミーが居るところで、お父さんが僕を綺麗にしてくれて、三人で暮らせる所。

帰りたい。マミーの所に。そんなことをずっと考えてたよ。

検査の結果の後、マミーとお父さんが「テディ車に乗って、お家に帰れるのよ」だって。

僕何が何だかわからなくてぼーとしちゃって、僕はなにすれば良いのかも忘れたよ。

マミーは僕に「お家に帰るのよ、テディのお家にだから早く車に乗ってちょうだい」って言っている。

マミーの声で本当に帰れるんだって分かって、それからは直ぐに車に乗って僕たちのお家に向かった。

車の中でも色々考えていたんだ。マミーとお父さんと離れ無くても良いんだってことや、僕の肝臓は何だったんだのかなってこと。先生も何で数値が高くなったのか理由が分からないんだって。

色々考えてもわからないから、これからまた大好きなマミーと一緒にお出かけして、マミーの手伝いが出来る事の嬉しさを、僕にとっての理由にしようと思う。

お家に帰って来てすぐに僕はベットに寝転んだ。安心したらすぐにウトウトしちゃったけど、マミーがそばにいてくれた。久しぶりな幸せな時間だよ。でもこの幸せはいつか壊れてしまうのかな?少しでも長くこの幸せが続いてくれる事を祈っていたんだよ。

それからまた時間が経ったら急激に肝臓の数値が良くなったんだ。もうマミーとお出かけできるし、どこへでも出かけられる。だから僕がんばるんだ。

センターから帰ってきてからまず僕が覚えたことは、街中にある点字ブロック。 駅へ向かう道には必ずその点字ブロックがあるから、僕はそれに沿って歩いてマミーをリードするんだよ。マミーがエレベーターに乗るって言えばエレベーターの所まで点字ブロックに沿って行って、エスカレーターって言われたらまた点字ブロックを探してエスカレーターの乗り場までいけるんだ。点字ブロックがあると僕もすごく楽なんだ。今は点字ブロックのことをいっぱいいっぱい勉強してる。頭の中でその点字ブロックがどこまで続いているのかだんだんわかるようになってきた。マミーもう大丈夫、僕覚えた事、これから覚える事楽しみだよ。もっと立派な盲導犬になるよ。それまでまだ時間がかかると思うけど待っててね。

第9話 僕の初めての旅行

テディだよマミーのところに来てからずいぶん時間が経ったよ。僕すっかりお家に慣れて、マミーの言葉がずいぶん理解できる様になったんだ。まだお父さんのことはよく分からないけど僕のことを色々してくれるんだ。ブラッシングとか、汚れたところを綺麗にしてくれるんだよ。これからもっとわかり合えるといいな。

マミーは色々な音楽を聴いているんだけど、聴いている時のマミーの顔はとてもうれしいそうなんだ。でね、ある日ネコちゃんがビッグニュースって飛んできたんだ。ネコちゃんはマミーのお友達で、今度映画に行く約束をしてた。映画って何んだろうな。

映画に行く当日、僕たち三人は電車に乗ってお出かけしたよ。なんか大きな部屋に入ってね、ちゃんと僕もゆっくり出来るところでしばらくしたらいつもマミーが聴いてる音が聞こえてきたんだ。それもすごく大きな音でね。ネコちゃんとマミーがすごく興奮しているのが分かるんだ。終わってからも2人はしばらく興奮してたよ。2人がどのくらい映画が好きかって言うのが、この後6回も見に行くことになるんだからよく分かるよね。

いろんな映画館に行けたんだ。さっちゃんとアッくんが一緒の時もあったよ。どこに行っても僕がゆっくり 出来るところに案内してくれたから、僕も楽しめたたんだ。

ある日ネコちゃんがすごい赤い顔して僕のうちに来たんだよ。「大阪のチケット取れたよ、ちょっとだけ遠いけどテディが一緒だから大丈夫だよね。お泊りだよ。大阪にね」って、それを聞いたマミーはびっくりしちゃって、ぽかんとしてる。僕もなんだかよく分からないけどとりあえず良かった事にしたよ。来年の一月に大阪にお泊まりすることが決まり、電車で行くんだって。喜んでいるマミーが見ると、なんだかわからないけど僕も嬉しいな。お父さんはお留守番なんだってさ。ちょっとだけ可哀想だな。新幹線の特別なお部屋に乗るのが決まって、ネコちゃんの行動力すごいってマミーがびっくりしっぱなしだったよ。

大阪に行くのが決まってからマミーはいつも以上にガンガン音楽をかけるから、お父さんはウンザリしちゃってる。何がそんなに嬉のかな?僕も分からないけど、喜んでいるマミーを見ると僕も嬉しい気持ちになるよ。

あっという間に大阪に行く日が来たんだ。マミーもネコちゃんもなんか落ち着かない様子で僕に伝染しちゃった、2人の興奮がね。でも僕は盲導犬の仕事をしないといけないから落ち着いて過ごすようにした。新幹線の乗り場までは駅員さんが案内してくれるんだ。電車が到着したら電車の中から女の人が「お待ちしてました、お部屋にご案内しますね」だって。すごいVIP待遇だよ。部屋の中はとてもゆったりしていて、貸切になっていた。僕は横になってのんびりとしていると、まもなく大阪なんだって。2時間くらいだったかな。マミーがハーネスをつけたので僕は盲導犬モードにシフトチェンジ。大阪はネコちゃんも初めてだから緊張している感じ。マミーは僕とネコちゃんがいるからなのかな。一番のんびりしていて「新幹線にこんな所があるなんて素敵ね」だって。呑気にワイン飲んでいるもんだからネコちゃんに怒られてたよ。

それからお姉さんが迎えに来てくれて、電車を降りたらまた駅員さんが待っていてくれて、出口まで案内してくれるんだよ。マミーが「駅員さんの後をついていくのよ」て言うから人にぶつからないようにマミーをガードしたら隣でネコちゃんもガードしてくれていてちょっとだけ安心したよ。後はよく覚えてないけど、車に乗って広い所に着いたみたい。大勢の人がいっぱいいて、僕はとにかくオタオタしないようにマミーのリードを頑張るしか無いから、ネコちゃんを見失わないようにして気をつけていたんだ。

目的地に着くと、ネコちゃんが名前を言ったら「こちらへどうぞ」って女の人が案内してくれた。着いていくとそこには僕たちの座れる場所がちゃんとあったんだ。会場はたくさんの人で溢れてて映画館とは全然違ってる。一体どこに来たんだろうって思っちゃったよ。そしたらマミーが「これからコンサートが始まるのよ」だって。

コンサートが始まると、マミーがいつも聴いている音楽が聞こえてきた。「クイーン」って言うバンドのコンサートなんだって。マミーはもうウキウキしちゃっているしネコちゃんもうれしそうだしで僕まで一緒になって騒いだら大変だから僕はしっかりマミーを見てたんだ。コンサート会場はものすごい歓声で盛り上がってた。でも歌や音楽はしっかり聞こえてくる。後の事はよく覚えてないけど、あっという間の時間だったよ。僕はマミーを見守らないといけないからね。

コンサートが終わると、人がぞろぞろ動き出したんだ。僕たちはお迎えが来るまで待っていたよ。

ネコちゃんとマミーは「お腹すいたね」「すごかったね」「来てよかったね」とか興奮した様子で次々に言ってる。僕は僕で外に出たら安心しておしっこしたくなっちゃった。やっと僕の様子に気づいたマミーが袋をつけてくれてトイレさせてくれた。ホッとしたよ。

落ち着いてからタクシーでお泊まりするところの近くまで行ってから、食事できるところを探してたみたいだけどどこのお店も閉まってる。空いてるお店をやっと見つけて「盲導犬連れているけどいいですか?」ってネコちゃんが言ったらどうぞどうぞって入れてくれた。お店は片付けしている所だったけど、僕たちのために開けてくれてマミーたちはワイン頼んで赤い顔してる。まだ興奮してるんだろうね。いろいろ話してたけどちょっとわかんなかったから僕は静かなところでゆっくりしてた。

それからホテルに着いてマミーはバタンキュー。ネコちゃんはお風呂に入ってたよ。僕も疲れてたみたいでバタンキューだった。

目がさめるともう次の日だった。これからおうちに帰るよーってまた来た道を戻るんだ。来た時と同じように特別なお部屋に入れてもらって電車も快適で、おうちに着いたよ僕のはじめての旅行だった。無事にマミーを守れてよかったって思ってる僕がいた。

第10話 考える僕

僕が大阪に旅行に行ってからいろいろ考えることがあったよ。あんまり仕事しなかったような気がする。初めての旅行っていうのもあるけど、オタオタしてたのかなあ。今考えるとネコちゃんを追っかけていただけだった気がするんだよね。盲導犬失格だなって帰ってから思っちゃった。

それから少したって誕生日が来た。僕3歳になったんだよ。3歳って大人だよね。

もっとしっかりしなきゃダメだと思って、マミーにもっとコマンドを教えてもらおうって考えた。

でもマミーは僕を信じてくれているから、これ以上は必要ないんだって。そうなのかぁ・・・。

次に考えたのが、マミーが行くところ全部覚えること。

病院とか銀行とかその他いろいろね。マミーの散歩に行くことが僕の仕事じゃない。僕の仕事はマミーの安全を守ること。それが今回の旅行でわかったんだ。

僕がしっかりしてなければマミーは何もできないんだからね。そう考えたらマミーの弱点がすごくわかってきたんだ。

マミーは右腕と右足が弱くて、歩いていると右側にかたよっちゃうんだ。だから歩く時にマミーが右にかたよらないように修正する。訓練中に訓練士さんに「テディ集中して」って言われた事はこのことなんだ。マミーは自分の辛い事はめったに表に出さないから僕はそれも考えてあげなきゃいけなかった。ほんとに僕子供だった。これからはマミーの助けにならなきゃいけないよね。それが僕の仕事だもん。

今回の旅行でとても大事なことに気づけたよ。僕は盲導犬で、目の見えないマミーの助けをするのが僕の生きがいなんだ。マミーもうちょっと待っててね、僕もっともっと成長するよ。

まず僕が最初に覚えようとしたのは、マミーが電車に乗る時にどの車両に乗れば降りる駅のエレベーターかエスカレーターのそばに降りられるかって言うこと。できるだけマミーが歩かなくて良いように考えてみたんだ。

何回かいろんな場所を試したらある時バッチリ決まったんだよね。降りたところのすぐにエレベーターがあった。そしたらマミーがすごいびっくりして「テディ、グレイト」って言ってくれた。これで行きの電車に乗る場所覚えたよ。決め手は電車を待ってる場所なんだよね。そこから乗れば降りる駅のエレベーターのそばに着くんだよ。

次は帰りの電車のことを考えてみた。行きと同じ場所から乗ったら全然違うとこに降りちゃった。駅によってエレベーターとかエスカレーターの場所が違うんだよね。何回か試してみてわかった。それからは二度と同じ間違いをしなくなったよ。マミーはすごいびっくりしたみたいだけど仕事だから当たり前だよ。僕マミーの盲導犬なんだから。

目の見えないマミーの立場に立って考えてみたら、色んな事がわかるようなってきた。駅の様子を見てエレベーターとエスカレーターを選ぶようにした。人が多いところは避けるんだ。そうしたらいつからかマミーが「テディ今日はどっちなの」って聞いてくれるようになったよ。僕それがすごく嬉しかった。僕自身の考えたことだもんね。やっぱり考えなくちゃだめだよね。そうすればただコマンドを聞いてるだけじゃなくて自分で考えることができるようになる。それって僕にとってはとても嬉しいことだった。それから早くなったよ、いろんなことがね。どうすればいいか考えられるようになったんだ。

盲導犬の僕が自分で考えることがマミーにとって良いことなのか悪いことなのかわからないけど、今のところはうまくいってるよ。

マミーが僕を信頼してくれているから、僕たち良い関係だよね。

病院も1番良い方法で行くことを考えられるようになった。僕が考えるとマミーが無理をしないで済む。

電車に乗る時も、マミーを座らせてあげたいから空いているところを探すんだ。マミーは僕にも座るようにって言うけど、僕は体が大きいからマミーと一緒に座ると他の人の邪魔になっちゃうからね。僕は立って待つようにしているよ。

それから銀行に行く道もなるべく車が通らない道を探して行くんだ。そうすれば危険が少ないでしょ。これは僕が考えたことじゃなくて、ガウディが絶対に守らなきゃいけないって教えてくれてたんだ。車が来た時は必ず止まって、通り過ぎるまで動かないようにしているよ。

時々車のほうが止まって、僕たちに行くように勧めてくれる人もいるよ。そんな時は僕がマミーに合図するんだ。マミーがお礼を言うと車の中から「気をつけてね」って声をかけてくれる人もいる。僕嬉しい気持ちになるよ。

ハーネスを外してマミーが「テディお疲れ様。ありがとう」って言ってくれて初めて僕は盲導犬からいつも通りの甘えん坊になるんだ。僕はどっちの僕も大好きだよ。

第11話 バイバイ、ガウディ

はい、テディだよ。この頃マミーがちょっと変なんだ、ベッドに横になってることがすごく多いんだよ、どっか具合悪いのかなあ。ちょっと心配だよ。今年は暑いし外に出ないのはしょうがないけどあまりにも変だよ。病院に行く以外、外に出ないし病院に行くのもお父さんの車で行くし絶対おかしい。たまにハーネスを握っても重心が取れないしふらつくんだよね。でも僕が心配してもどうしようもないよね。

ある日用事があって出かけたんだけど、その日もとても暑くて雨が降ったりやんだりしてる。

いつも通り僕がマミーをリードしていると、急にマミーが様子がおかしくなって倒れそうになった。後ろを歩いていたお父さんが慌てて支えてくれたんだけど、マミーは意識がないみたいなんだよ。僕がマミーの手にキスをしても反応がないし絶対変だ。こんな事初めてだよ。

お父さんがマミーを抱えて車に乗せたんだ。しばらくしたらいつものマミーに戻ったけどすごくかったるそうだった。次の日に病院で診てもらったら熱中症なんだって。体温の調節がうまくできてないみたい。マミーは水と食事をあまりとってないみたいで先生に怒られてたよ。

マミーは心配なことがあると食べなくなっちゃうんだ。お父さんがあれこれ食べられそうなものを買ってきてくれてるけどほとんど食べないんだよね。それで先生にアイスクリームを食べなさいって言われてた。

それからしばらくして点滴が終わったみたいで、マミーが「テディごめんね。もう大丈夫だよ。おうちに帰ろうね」って言ってきた。病院に来た時よりも少し元気になっていた。おうちに帰ってからすぐにベッドで横になっていたけど、しばらくしたらなんか元気になってきたみたい。僕ホッとしちゃった。

それから数日経って、少し涼しくなってきたからマミーも食欲が出てきたみたいで少し食べるようになった。でも外には出られないみたいで心配だよ。マミーが少しずつ元気になってきてるのは僕にもわかったよ。「テディ、ごめんね。テディ、ごめんね。」って何度もマミーは僕に謝ってた。謝らなくたっていいんだよ。元気になってくれれば。そして僕と一緒に歩いてくれれば。

ある日お父さんだけが車に乗って朝早く出かけていった。お父さんだけが出かけるなんてめったにないことだからどうしたのかな?

マミーは何も言ってくれないから、僕の心配しすぎかな?

しばらくして、お父さんが帰ってきた。ガウディの具合が良くないんだって。お父さんはマミーに「マミーの言った通りだったよ。もう危ないかもしれない」って言ってた。

マミーとお父さんの話を聞いてから富士ハーネスに行ったときにはガウディはもう動かなくなっていた。もう二度とガウディと遊べないことが僕分かっちゃった。マミーが僕にガウディにさよなら言いなさいって言った。マミーにはこれがわかってたみたいで、動かないガウディに向かって「ガウディやっと家に帰れるね。お家に早く帰ろうね。約束通りにするからね。安心して寝ててね」って言ってた。

お家に帰ってからマミーはララちゃんが眠ってる隣にガウディの牙とマミーの髪の毛とお父さんの髪の毛とガウディをブラッシングした時の毛を一緒に土の中に入れて、「ガウディゆっくりおやすみなさい」って土をかけた。マミーが僕に「ガウディおやすみなさい」と言ってねって声をかけてくれた。ガウディとはもう会えないのがわかったよ。ガウディは僕に沢山の事を教えてくれたから、教わったことは忘れないからねって、ガウディに伝えたんだ。

それからしばらくして、マミーはずいぶん元気になった。ネコちゃんもガウディにお花をあげに来てくれた。他にも沢山の人がガウディにお花を持ってきてくれたよ。きっとガウディは幸せだったんだなって思った。だってマミーの盲導犬だったんだからね。僕は今幸せだよ。ガウディの分も頑張るよって心に決めた。

ガウディがお家に帰ってきてからマミーはどんどん元気になってご飯もたくさん食べれるようになった。そして僕と出かけられるようにもなったし、病院にも行かれるようになった。ガウディはマミーとお父さんの大事な子だったんだね。だから僕もマミーとお父さんの大事な子なんだよ。それを考えたらマミーの言葉だけじゃなくて、お父さんの言葉もわかるようにならなきゃいけないね。

それから僕は一生懸命お父さんの言葉を理解しようって努力した。努力したらお父さんの言うことも随分とわかるようになったよ。

お父さんの言葉がわかるようになったら、お父さんは僕のことを大事に思ってくれているのがよくわかったんだ。僕がマミーのところに来てお父さんに会ってつくづく幸せだって思った。

追伸 ガウディとテディのユーザーより

私が盲導犬の独り言を書き始めたのは、昔から何となく動物の気持ちが伝わる感じがしていました。それがはっきり分かるようになっったのはガウディとの出会いでした。私を試すこの子を「何なのこの子は」とちょっとイラっとした気持ちになって、「この子とペアを組みたく無い」と担当者に伝えました。でもその後よく考えたら気持ちが通じ合うことがどんな結果になるのかなぁと思い直してガウディとペアを組むことにしました。それからは本当に驚きの連続でした。ガウディは私の頭の中に直接語りかけてくるのです。

それからはガウディと2人で色んな事を考えて、ガウディとペアを組んだ私は自由に歩けるようになりました。

そんな幸せの中でガウディに骨肉腫という病気が見つかりました。ガウディが7歳の時でした。そしてガウディは盲導犬を引退せざるをえなくなりました。手術後1年経って再発しなければ大丈夫だと執刀してくれた先生が言ってくれました。ガウディも私と一緒にいたいと言ってきたのでセンターの方たちに伝えましたが良い返事を得ることができませんでした。ガウディを自宅に連れ帰ることはできなかったので、富士ハーネスと言うところに療養のために行くことになりした。それから主人と一緒にお見舞いに行く日々が始まりました。会いに行くととても喜んでくれて、いつ帰れるのかと聞いてきます。でも答えてあげることができません。そして半年が経ち私に新しい盲導犬が来ることが決まりました。それをガウディに伝えるのがとても辛かったです。するとガウディは≪僕はもうママンを守ることができないんだからしょうがないよ≫って寂しそうに言いました。続けて≪ママンが動けることが、僕の幸せでもあるんだよ≫って言ってくれました。

それからは新しい子テディーと一緒にガウディに会いに行くようになりました。ガウディは私に≪テディには僕からいろいろ丁寧に教えるから安心してね≫と伝えてきました。

テディが具合が悪くなった時は、ガウディが私にこう言いました≪テディは大丈夫だよ。ちょっと僕にエネルギーをくれてるから。だからしばらくしたら元気になるよ≫と。ガウディの言葉を信じて、私はテディを病院に入院させる事にしました。

1ヵ月経つと、テディは元気になって家に帰ってきました。本当にガウディの言う通りだったんです。富士ハーネスにいるガウディに感謝の思いを送ると、ガウディは私に≪僕食べたいものがあるんだ≫と言ってきました。ガウディはりんごやお肉が欲しいって。

富士ハーネスでは療養中の犬には食べ物を持ち込んでは行けない事になっていたので、私は隠れてガウディの好きなものを食べさせていました。その時のガウディはすごく幸せそうでした。私たちの秘密の食事は、2ヶ月ほど立った頃にセンターの人に見つかってしまい食事は禁止され、私はセンターに行きにくくなってしまいました。

寂しくなった私を察したガウディが私に話しかけてきました。

≪僕具合が悪くなっちゃった。だからママンには惨めな僕を見せたくないから来ないで≫

これはきっと私のことを気遣ってくれたメッセージだったのでしょう。

それからしばらくしてガウディからメッセージが入りました。

≪僕が僕じゃなくなるような気がする。だからすぐにお父さん僕のところに来て≫

≪僕が僕でいられるうちにお父さんに会いたいです≫と。

この時もガウディは私には来るなというので、すぐに主人に向かってもらいました。

ガウディはもう一つ私に頼んできたことがありました。

≪僕が死んだら、僕の右の犬歯とママンの髪、お父さんの髪、そして僕の髪をおうちにいるララちゃんの隣に埋めてね≫と。

メッセージから5日後、ガウディは永遠の眠りにつきました。ガウディとの約束通りに私はガウディの犬歯を4本持って帰りましたが、家に着いて開けてみると1本の犬歯しか残ってなくて後が崩れていました。私はガウディが言った通りにガウディの残った1本の犬歯と私たちの髪とガウディの髪をララちゃんの隣に埋めてあげました。

動物の声が聞こえるなんておかしな話って言われるかもしれませんけれど、私はガウディの言葉通りにしてあげました。

ガウディの言葉が分かることが、私が「ガウディの独り言」を書き始めた理由です。

そして新しい子テディも私にメッセージを送ることができます。私は「ガウディの独り言」に続けて、「テディの独り言」を書くことにしました。

きっと私と話せたことがガウディの幸せで、私の幸せだった思います。

これからはテディーの声を聞いて、仲良くやっていきたいと思っています。

ゆっくりおやすみなさいね

2020年 9月20日

私の愛しい子 ガウディ

第12話 僕の友達

はい、テディだよ。僕には大好きな友達が3人いるんだ。今回はその三人の友達を紹介するね。

黒のラブラドールのジュナちゃん。チワワのちくわちゃん。それと盲導犬の黒のラブラドールのアスクちゃん。みんなガウディから教わった友達なんだよね。

黒のラブラドールのジュナちゃんは歳が僕に近くて半年僕よりお姉さんなんだよね。ジュナちゃんはガウディとよく遊んでいたんですぐに僕を受け入れてくれて一緒にジュナちゃん家で遊ぶんだよ。ジュナちゃんのおうちのお庭はガウディとジュナちゃんがいっぱい遊べるようって全部グリーンのカーペットが引いてあるんだ。だから僕達がかけっこしたりボールの取りっこで寝っ転がっても汚れないんだよ。時々僕がジュナちゃんより先に走るとすごく怒られるんだ。「私より先に走っちゃダメ!」ってね。でも僕の方がだいぶ大きいからジュナちゃんを抜いちゃう時があるんだよね。その時はすごい怒られる。でも怒られても僕なんでもないよ。怒られるのも楽しいからね。

ジュナちゃんのお母さんはとても忙しくてめったに遊べないんだけど、たまに遊べる時はマミーに連絡がくるんだ。僕はいつでもマミーのお仕事がなければ遊べるんだけどね。マミーから「ジュナちゃん家に行くよ」って言われるとすごく嬉しくて、僕ぴょんぴょん飛び跳ねちゃう。

この頃はマミーの体調があまり良くなかったから、ジュナちゃん家にはお父さんが連れてってくれるんだ。僕が帰ってくるとマミーは「ジュナちゃんと遊んでどうだった?」って聞いてくれる。帰った時は僕もうくたくたになってるんだ。どのくらい遊んでいるかって言うと、30分くらいの間、2人で飛んだり跳ねたり噛み合ったりしてるんだよ。

次はねこちゃんのおうちのちくわ。ものすごくちっちゃくて僕の頭ぐらいしかないのかな。でも鳴き声がすごいんだよ。とっても大きな犬の鳴き声をするんだよ。嬉しくても怒ってる時もおんなじ声で鳴くから考えちゃう。ちくわはガウディがすごく好きだったから、僕とはあんまり遊んでくれない。そばにはいてくれるんだけど遊んではくれないんだよ。でも一緒に散歩したりちょこちょこ僕の後からついてきたりするんだ。かわいいんだよ。名前の由来はねちくわに似てるからなんだって。面白いね。

ちくわの家には19歳になる猫のきなこちゃんがいるんだよ。僕が行っても全然平気なんだ。一緒に遊ぶわけじゃ無いんだけどね。ねこちゃんのお家に行くと僕はきなこちゃんに挨拶に行くんだよ。きなこちゃんも僕にくっついて来てくれて嬉しいんだ。

それと盲導犬のアスクちゃんはガウディの1つ下で七歳なんだって。僕は三歳だからちょっと下に見られてるんだよね。でもガウディと仲が良かったから僕にも仲良くしてくれるんだ。公園で一緒に走ったりすると、アスクちゃんはすぐ疲れちゃうみたい。僕はもっと遊びたいんだけどね。仕方ないよね。

そうそう、盲導犬が遊んでいるのって普通の人から見たらなんだろうって思うみたいなんだ。

でも僕たちだって普通の犬と変わらないよ。遊ぶときは思いっきり遊ぶんだ。ただハーネスをつけてお仕事状態になった時は普通の犬ではなくなっちゃうけどね。僕はマミーの目の代わりだからね。だから周りを一生懸命見てマミーの安全を確保するんだよ。マミーは階段が使えなからスロープを探すようにガウディから教えてもらってたんだ。お店に入る時も必ずスロープを探すよ。スロープを探すのは大変なんだけど、やりがいがあるよ。マミーが安心できるからね。それは僕たち盲導犬だけができることだからね。

僕は盲導犬としてのお仕事をすることもすごく好きだし、友達と思いっきり遊ぶこともすごく好きなんだ。どっちが好きなのかなってみんな思うだろうけど、お仕事する事は好きとか嫌いとかじゃなくて僕の使命だから遊ぶこととは全然違うことなんだよ。かっこよく言うと次元が違うんだよね。難しい言葉知ってるでしょ。お父さんが時々そんなことを言うことがあるから覚えちゃった。これからもジュナちゃんとちくわちゃんとアスクちゃんと一緒に過ごせると嬉しいな。

第13話 はじめてのお買い物

はい、テディだよ

今回は、マミーとはじめてお買い物に行った時の話をするね。

目の見えないマミーは1人でスーパーに行っても欲しいものが買えないから、ネコちゃんがついてきてくれたんだ。マミーが歩きやすいようなお店をネコちゃんが選んでくれたから、お店の中はすごく広くて何かにぶつかる事はほとんどなかったよ。

スーパーの入り口では手を消毒するんだって、ネコちゃんがマミーの手にスプレーをかけてたなぁ。

スーパーの中はカートを押しながら歩くんだよ。ネコちゃんがカートを押して、僕とマミーがその後をついて歩いたんだ。それでマミーが欲しいものを猫ちゃんに伝えると、その場所まで連れてってくれるんだ。スーパーには色々なものがあって、僕の大好きなリンゴもあったよ。お父さんがおやつにくれることがあるんだよね。

でも今日はマミーのお買い物だから、りんごは諦めたんだ。またお父さんに食べさせてもらうよ。

マミーはスーパーに買い物に行くのは初めてだってネコちゃんに言ってた。ガウディとも行ったことなかったんだって。なんでだろうね。

スーパーの中では、マミーはうれしそうに「これなに?」「あれなに?」ってネコちゃんに聞いたよ。そんなマミーを見ていると僕もスーパーがすごく好きになっちゃった。

ちっちゃな子供が「スーパーの中に犬がいるよ」「すごく大きな犬だよ」ってその子のお母さんに言っているのが聞こえた。そのお母さんは「あの犬はね、盲導犬って言うのよ」って教えてた。続けてそのお母さんが「盲導犬はお仕事をする犬なのよ。だからスーパーにも入れるの。お仕事の邪魔をしちゃいけないのよ」って言ってた。僕はそれを聞いて凄く嬉しくなった。そう、僕はお仕事をする犬なんだ。だから他の犬が入れないようなところにもマミーと一緒に入れるんだよね。

誰から見ても「あの犬、変なことしてるよ」って言われないようにきちんとしなきゃいけないってつくづく思っちゃった。

スーパーの中ではとにかく曲がることが多かった。ネコちゃんに着いていくように歩くんだけど。曲がるときにマミーがバランスを崩しちゃうんだよね。これはまずいって思ったんだ。何回か失敗しちゃったけど、ネコちゃんの曲がるタイミングでマミーに知らせるようにしたら、マミーもしっかり曲がれるようになったよ。

それからどのくらい時間が経ったのかなぁ。マミーは嬉しそうにいっぱい買っちゃったねってネコちゃんに言ってた。

買い物を終えて、家に帰るとすぐに僕はお父さんのところに行っておやつをちょうだいって鼻でつついて合図をしたんだ。

そしたらお父さんが「偉かったね」ってりんごのおやつをくれたんだ。お買い物の後のおやつはとてもおいしかったなぁ。

それからずいぶん寒くなってアスクとちくわと僕をネコちゃんが大きな公園に連れてってくれた。アスクはちくわが大好きでちくわをすぐ抱え込むからマミーがちくわをお腹の中にしまって隠してた。僕とアスクは広い公園を自由に走り回ったり寝転がったりしてすごく楽しかったなぁ。遊びまわっている僕たちをりゅうくん(ネコちゃんの息子さん)がずっと撮ってたよ。きっとマミーに頼まれたんだよね。マミーはそのうちYouTubeにって言ってたからね。

僕達が遊んでいる間もマミーはずっとちくわをお腹の中に入れていたよ。ちくわは小さいから僕たちと遊べないのかな?それとも寒かったからかな?

アスクがマミーに近づくと、マミーは慌ててちくわを隠すんだ。その様子をネコちゃんが見てゲラゲラ笑ってる。何がおかしいのかな。

そんなことをしているうちに僕の4歳の誕生日が近くなった。仕事をしたり遊んだりしているうちにあっという間に3歳ももう終わり。盲導犬の仕事がちゃんとできたかな?もうすぐ4歳になるけど今度はどんなことが待ってるのかなあっていろいろ考えちゃう。

盲導犬は10歳までに引退することになるってマミーから聞いたよ。

僕の友達のアスクは9歳で、もうすぐ盲導犬を引退のことをさっちゃんは考えなきゃいけないんだって。

そしたらアスクは盲導犬じゃなくなっちゃうのかな?遊べなくなっちゃうのかな?さっちゃんともお別れするのかな?

そんなことを考えていたら寂しい気持ちになったよ。

誕生日が来るのが嫌だなって思っちゃった。ずっとマミーと一緒にいたいもん。マミーもきっとそう思ってるよね。

それから1つ変わったことがあるんだ。今までたまにしか遊べなかったジュナちゃんだったんだけど、1週間に1回遊べるようになったんだ。

この頃マミーはちょっと怪我をしてたから、ジュナちゃん家にはお父さんが連れて行ってくれた。でも雨が降ると中止になっちゃうんだよね。

だからジュナちゃん家に遊びに行く前の日は、夜中に目が覚めて、雨が降っていないかマミーに聞くんだ。そうするとマミーは外を見て来てくれて「テディ雨降ってないよ」って教えてくれる。それを聞くと安心して眠れるんだよね。

僕はマミーの盲導犬としてお仕事することも、友達と遊ぶことも大好きで、こんな毎日がずっと続けばいいのに。

だから4歳にはなりたくないんだ。

盲導犬の仕事して、遊んで、悩んで毎日があっという間に過ぎているけど、僕は毎日幸せだって思っているよ。

第14話 真夏の怪談

はいテディだよ。今日はちょっと僕の体のことを教えるね。僕はとても体が大きくて今38キロあるんだ。体が大きい僕にも弱点があるんだよね。それは僕は肌が弱くてお腹にポツポツと赤い斑点ができるんだ。それがちょっとかゆいんだよね。かゆいから、足で掻いたり舐めたりするんだけど、マミーにいつもダメって怒られちゃう。マミーも気にしてくれていて、パピーだった頃の事をこうじパパとクッシーママに聞いてくれたんだけど、パピーの頃はそんな事はなかったんだってさ。訓練所に入ってからポツポツが出始めたらしいんだ。僕はあまり気にしてなかったんだけどマミーが初めて訓練所で僕のシャンプーをしてくれた時に見つけて訓練所の獣医さんに診てもらったら嚢胞腫(のうほうしゅ)だって言われたんだって。マミーは僕をとても心配して、獣医のゆう先生に相談していつも使ってたシャンプーを病院でもらった物に変えてくれたんだ。お腹の毛が邪魔になるからって胸の辺りまできれいに刈り込まれてちゃった。なんだかスースーして気持ちいい感じ。マミーは指でぶつぶつを探して薬を塗ってくれるんだけど、マミーは手が不自由だから結局はお父さんにやってもらうことになった。マミーは僕を心配してくれて、毎日お父さんに「もう良くなった?」って聞くんだけど、お父さんは「そんなに簡単に治らないよ。毎日聞かないでよ」ってちょっとイラついてたみたい。マミーの気持ちに応えたいから、1日も早く治すために僕も舐めないようにがんばるよ。

良くなるのに1年くらいかかったかなぁ・・・ある日マミーが僕の耳の中から変な匂いがするって言い出した。そういえば僕耳を掻くことが増えてたな。それで今度は耳を見てもらうことになったんだ。そしたら外耳炎だって。ゆう先生から耳の薬をもらって1日2回マミーに入れてもらうんだけど、痒くて我慢できなくなることがあるんだよね。掻いちゃダメって言われているから、頭を揺さぶって耳をばたばたさせるんだけど、僕の様子に気づいたマミーがすぐに薬を入れてくれるんだ。

お腹のポツポツも外耳炎も僕の肌が弱いからみたいだけど、年齢とともに良くなってくるって言われたよ。
とにかく僕は舐めないように、引っ掻かないようにがんばらなくっちゃね。

肌が弱い事以外にも弱点があって、僕は寒がりで暑がりなんだよね。寒いのも嫌いだし暑いのも嫌いなんだ。他の子はどうだかわかんないけど僕は寒い時はダウンコートを着るんだよ袖のないやつね。もともとお父さんが来てたベストをもらったんだけど、お父さんの洋服の大きさが僕にちょうどいいんだよ。僕の体の大きさ大体分かるでしょう。
寝る時は寝間着用のダウンを着てる。それで暖かい毛布をかけてもらうんだ。そうすると暖かくて良く眠れるんだよね。でも寝ている間に僕がこそこそ動いちゃうから、毛布がズレちゃうことがあるんだけど、マミーが気遣ってくれて毛布をかけ直してくれるんだよね。マミーは寝ている間も僕のことを気にしてくれているけどちゃんと眠れているのかな?気遣ってくれるのは嬉しいけどマミーが寝られないのはちょっと困っちゃうなぁ・・・。

暑い時期はアスファルトがすごい熱いでしょ。マミーの用事で出かけるから暑い時間も外出するんだけど、マミーが僕を気遣ってくれてお出かけの時にはマミーが手でアスファルトを触って暑いと僕に靴を履かせてくれるんだ。その靴を履くと熱さを感じないんだよね。でも最初はとっても歩き難かったんだ。最初はお家で練習したんだけど、マミーとお父さんがクスクス笑うんだ。何だろう?マミーはロボットが動いているみたいなんて言ってたよ。でも慣れちゃうと靴を履いて歩いたほうが全然楽なんだよね。石ころが痛いこともないし、足の指の間に何かが挟まることもない、マンホールの上もへっちゃらだよね。だから僕は靴が大好きになっちゃった。

暑いのが苦手な話でマミーがケラケラ笑って話してることがあるんだけど、僕の友達のアスクも暑いのが苦手なんだ。
アスクは自分のお家の2階で寝ているんだけど、ある日突然2階に上がらなくなったことがあったんだって。心配したさっちゃんがマミーに相談してきた。マミーは2階もエアコンつけてるか聞いたら、普段は誰もいないからつけてなかったみたい。暑いのが嫌いなアスクは2階が暑いってわかってたんだね。
でもエアコンつけて涼しくしてもアスクは2階に登らなかったんだって、これだけ聞いたら僕より暑いの苦手だってわかるよね。
2階が涼しくなったのをアスクにわからせるのために、訓練士さんに来て貰って、何度も抱っこして1階と2階を行ったり来たりしたんだって。

これが「真夏の怪談(階段)」だってマミーが笑ってた。